雪が降る地域にお住まいで「瓦屋根にしたいけど、周りにもないし無理だろうな」と思った方。
実は「無理ではない」というのをご存じでしょうか。
「瓦」は飛鳥時代に中国から日本へと伝わり、江戸時代の中頃から広く庶民の間にも広がった屋根材です。
現代でも家屋の代表的な屋根材の1つとして瓦は用いられていますね。
でも実際、北海道や東北では瓦の屋根をあまり見かける事がありません。
東北では一般住宅でも割と見かける事もありますが、北海道では古くからある蔵などで稀に使われている程度です。
確かに東北や北海道では冬には沢山の雪が降るため、豪雪にも耐え得る「トタン」を用いた屋根が主流となっています。
・瓦は雪や寒さに弱いのでしょうか?
・なぜ東北や北海道に瓦屋根が少ないのでしょうか?
今回はそんな疑問も交えながら、「雪や寒さに強い高品質の瓦」についてお話しようと思います。
雪国で瓦の屋根が少ない理由
ねぇあっくん。雪の降る地域の家の屋根は瓦じゃないのね。やっぱり割れちゃうのかしら。
実はそんなことはないんだよ。近年の瓦は積雪にも十分耐えられる高性能なものが多いんだ。
でも確かに雪が多い地域ではあまり見かけないよね。
以前こんな話を聞いた事があります。
「あまり見かけないが、実は雪国の家の方が瓦屋根に適している」
そして実は現在生産されている瓦の殆どは、雨はもちろん雪にも耐えられるように作られています。
ではなぜ雪が降る地域、特に北海道に瓦屋根は少ないのでしょうか。
その理由は「場所」とそれぞれの「地域の気候」にありました。
東北の日本海側で見られる瓦屋根
まず降雪量が多い地域の中で、なぜ東北の日本海側では風雪に強いトタンの屋根ではなく瓦屋根が使われているのか。
それは「瓦屋根が塩害に強い」からです。
積雪と塩害を比較すると確かにトタンは積雪には強いです。
ところが海岸線・特に日本海側は北西からの季節風の影響を大きく受けてしまいます。
そのため金属の屋根に潮風が当たることで劣化が早まり、寿命が短くなってしまうのです。
瓦自体は焼き物なので塩害の影響は少なく、被害が大きく出ることはありません。
瓦屋根は積雪にも塩害に耐える事が出来て、海岸沿いの建物の屋根として最適と言えるのです。
このように塩害はあるけれど雪も降る、という土地に合わせて瓦もどんどん進化してきたのです。
東北と北海道の違い
様々な説はありますが、その一つに北海道と東北では土地の条件が違ったからだという説があります。
東北は本州の栄えていた地域から瓦を作る技術の伝達・瓦を作る為の材料の運搬が可能でした。
なので東北では瓦を作り屋根に用いる事が可能だった訳です。
一方北海道には開拓の為に多くの人が渡り、中には瓦の技術者もいたのかもしれません。
ですが北海道では材料の調達が難しい・技術が受け継がれない等といった問題がありました。
また、当時の技術の瓦は寒さによる凍害を受けやすく維持が難しかったためとても高価な物だったのです。
当時瓦を用いて屋根を作った建物は、松前藩の建物や漁業で富を得た鰊御殿(にしんごてん)などごく一部の建物のみです。
北海道は開拓をすすめる事が最優先とされる時代でした。
なので庶民の家の屋根にはお金も時間もかかる瓦は使われなかったのです。
開拓によって産出される多くの木材が、すぐに調達できる家材として使用されました。
瓦の代わりに30㎝程の輪切りにされた木材を3㎜程度に薄く割った「柾(まさ)」という屋根材です。
このように、北海道では瓦を屋根に用いるという事自体が衰退してしまったのではないでしょうか。
そうして長らくの間、北海道では木材とトタンが主要な屋根材として用いられてきました。
柾の強度を上げるために亜鉛版を張り付けたのを始まりとして、今の北海道の金属屋根に劇的な進化を遂げたんだね。
雪国の家はとても頑丈
何故、雪国の家が瓦屋根に向いていると言われるのでしょうか?
それは、雪国で建てられる家は他の地域で建てられる家よりも基礎が強く作られるからです。
積雪がある地域は同時に寒冷地でもあり、真冬には地盤までもが凍結する地域もあるためより強固な基礎が必要になります。
また、冬の間に屋根の上に積もる雪の重量は数トンにも及びます。
雪国の家はその重みに耐えられる様に強靭な基礎で設計されているのです。
平均的な瓦屋根の家の屋根自体の重みは6,000kg程で、雪の重みに比べると軽いかも、なんて思ってしまいます。
そして雪国で多く見られる金属板の屋根の重さは瓦の1/3の2,000kg程。
屋根を軽量にする事で建物の負担を軽減しているんですね。
雪に負けない瓦も様々
瓦はその土地の風土や気候に適応する様に発達してきました。
雪の降る地域でも使える様にと作られた瓦にも様々な種類があります。
高温の焼き上げに耐えられる土を使い、表だけではなく裏面にも釉薬をかける事で風雪や塩害に耐えられる様に作られた瓦
表面がザラザラで光沢のある銀鼠色が多く、雪下ろしの時に滑りにくく作られた瓦で強度と防水性を誇る
1,300度の高温で焼き上げる事で土がしまって硬くなる事で、吸水性が低くなり厳しい寒さにも耐えられる瓦
また、日本トップシェアの三州瓦(さんしゅうがわら)の中には軽量防災瓦というのもあります。
軽量化する事で積雪の際の住宅への負荷を減らすことのできる新しいタイプの瓦です。
従来の瓦の性能を損なう事なく11%軽量化しつつ耐震性や耐久性はアップした物なので、葺き替えに最適なのだそう。
この様に現在では、積雪にも適した瓦は何種類もあるのです。
雪の降る地域であっても新築・リフォームともに瓦屋根という選択ができるんですね。
単価費用やリフォーム費用についてはこちらの記事を参考にご覧ください。
瓦の葺き方も様々
現在では瓦の葺き方も大きく様変わりしてきています。
昔は瓦の下に床土と呼ばれる土を敷き詰めた土葺き(つちぶき)が主流でした。
品質の安定しなかった瓦と瓦の隙間を埋める事で、瓦がガタつかないようにしていたのです。
土を屋根の上へ運ぶという施工時の負担は大きく、瓦を揃えるための技術も必要でした。
また、瓦の重さに土床の重さが上乗せされ建物自体にかなりの重量負担がかかっていました。
ですが現在は瓦自体も品質が格段にアップし、形も大きさも揃ったものが作られるようになりました。
その為、土を使わない乾式工法でもガタつきもなく綺麗に瓦を葺く事が出来るようになったのです。
また、台風や地震にも対応した補強できる瓦の固定方法も伝統のものから最新の技術までたくさんあります。
近年の瓦金の施工では、瓦の種類にあった固定を組み合わせて行われています。
普通の瓦は雪に弱い?
一般的な瓦は雪には弱いのでしょうか?
結論を言うと近年の瓦屋根に限って言えばそうでもありません。
近年作られている瓦は性能も良く、耐久性も高い物がほとんど。
さらに瓦の葺き方自体も、瓦の品質が向上した事に伴い耐久性があがり軽量化がすすみました。
なので多少の雪が積もる分には全くといっていい位、問題ありません。
こんな雪害・凍害の種類
多少の積雪で問題がないのであれば、雪害はないのでは?と思われますが瓦屋根には以外なところで雪害が起きてしまいます。
- 屋根に積もった雪が流れ落ちる際に雨樋を歪ませてしまう。
- 雪の重みや、雪滑りで瓦がずれてしまい雨漏りを引き起こす。
- 大屋根からの落雪で下屋の瓦が割れてしまう。
凍害と呼ばれるものもあります。凍害は大きな気温差によって生じる被害です。
- 雪の水分が染み込み、夜凍る際に膨張して瓦を割ってしまう。
- 瓦そのものではなく表面の釉薬部分のみが割れてしまうケース。
などがあります。
ただ、瓦屋根で凍害を受けてしまった場合、割れた瓦のみを交換する事が可能です。
被害を見つけてすぐに修理すれば修理代は最小限に抑える事ができますので、早期発見・修理をおすすめします。
瓦屋根につける雪止めとは?
多少の積雪とは言えども、下に落ちる事で様々な被害が出る場合があります。
落雪による近隣トラブルも少なくないようです。
瓦に「雪止め」をつける事で、被害を減らす事が出来るでしょう。
雪止めは既存の瓦屋根に設置できるものもあるのでおススメです。
ですが、豪雪地帯では雪止めをつける事はおススメしません。
何故なら雪止めが着いている事で雪落としの邪魔になってしまいます。
また、雪の重さで雪止めが変形したりして屋根自体を破損してしまう可能性もあるのです。
暑い地域で瓦屋根が多く見られる理由とは?
ここでちょっと余談をしたいと思います。
雪の降る地域とは逆に南側に海を渡った九州・四国・沖縄諸島で瓦屋根が多く見られるのは何故なのでしょうか。
まず1つ目は台風などの被害を最小限に抑えるためです。
暴風時、屋根にはかなりの強風が吹き付けるので屋根材が飛ばされやすいのでそれを抑える為に重い瓦を乗せているのです。
2つ目は瓦屋根には抜群の断熱効果があるからです。
南に行くほど夏の暑さは厳しくなりますよね。(近年はそうとも言い切れませんが)
そんな猛暑の地域の屋根として、断熱効果の高い瓦屋根は最適なんですね。
また、土蔵や石蔵などに多く使われている理由としてはその「防火性」にあります。
昔の金庫や貯蓄蔵が土蔵や石造りで瓦屋根なのはそういった瓦の適性を活かしたものだったんです。
3つ目は防音性の高さです。
長い梅雨期間の雨音を瓦で極力抑える為です。
このように日本各地、地域ごとの気候に合った屋根材が使用されているんですね。
雪国で瓦の屋根が少ないのはなぜ?実は雪に強い瓦だってあるんです!のまとめ
近年ではどこの地域でも屋根の種類は殆ど制限される事はありません。
積雪にも塩害にも耐える高品質な瓦がたくさんある事もお分かり頂けたと思います。
- 表だけではなく裏面にも釉薬をかける事で風雪に耐えられる様に作られた”能登瓦”
- 敢えて表面に石などを吹き付けザラザラにする事で雪下ろしの時に滑りにくく作られた”安田瓦”
- 高温で焼き上げる事で土がしまって硬くなる事で、吸水性が低くなり厳しい寒さにも耐えられる”石州瓦・三州瓦
ですが東北の豪雪地帯、特に北海道では瓦そのものの文化や技術があまり発展してこなかったというのも事実です。
地域によっては瓦の技術者や扱っている業者も少ないかもしれません。
もし雪の積もる地域で瓦屋根を使用したい場合はほんの少しだけ手間はかかってしまうかもしれません。
それでも瓦屋根は決して雪の降る地域で不向きという事はありませんし、断熱性の高さを考慮するとむしろ最適と言えなくもありません。
雪の降る地域でも是非瓦屋根を検討してみて下さいね!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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